
漂流は加速する。
ワールドカ ップ同窓会の後、
ひとりゴールデン街をふらふら歩いていた。
前に入って感じよく、
ボトルも入れた『クラクラ』に入ろうかと思ったが、
なぜかフロンティア魂が沸き起こり、新たな店に飛び込むことにした。
が、意外と根性がいる。
小さな店がほとんどなので、
すでに世界が出来上がっちゃってて入りにくかったり、客が誰もいなかったり。。。
深夜にぐるぐるゴールデン街を三周し、
やっぱり直接マンガ喫茶行こうかなと思った時、
一軒の店のドアが開き、客が帰った後もドアが開けっ放しで店の中が見えた。
カウンター・バーで、黒い帽子を深くかぶった女性マスター。
客は二名。
一人は文化系の重鎮っぽい太ったおじいさん(後に舞台・演劇の演出家とわかる)、
もうひとりは中島らもを若くしたかんじの見るからに怪しいキャラ者(いまだ正体不明)。
店のドアには映画のポスター『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』、
『渚ようこ新宿ゲバゲバリサイタル』のチラシ。
店の看板には『汀』。なんと読むんだろう。
独特の味のある空気に引き付けられ、散々店の前をさりげなく往復したあと、
覚悟を決めて店に入った。
店に入ると、いちげんさんはあまり来ないのか、少し誰かな?みたいな反応。
バーボンを頼んだ。
そして店内を見渡すと、昔の映画のチラシや昭和映画スターの写真が、そこらここらに貼られていた。
ちょうど重鎮演出家が店を出て、中島らも風のお客さんと女性マスターが言い合っていた。
言い合っている内容が、
「新宿コマ劇場にサクラで行きますわ」と中島らも風の客がマスターに言ったことが、カチンときたらしい。
・・・それでわかったのだが、黒い帽子を深くかぶったマスターこそ、
チラシの渚ようこさん本人だったのだ。
もちろんその時は知らなかったのだが、後でネットで調べたところ、
クラブシーンと歌謡界を股にかける異色な歌謡歌手で、
クレージーケンバンドや有名アーティストとコラボレーションしたり、
ワン&オンリーの存在感を持つカリスマシンガー。
中島らも風の客と散々言い合ったあと、客が帰ってしまい、
渚ようこさんと二人になってしまった。
なんとなく気まずい空気のなか、ようこさんが『突き出し食べます?』のひとこと。
出てきたのはロールキャベツ。家庭的でホッとしました。
さてさて何を喋ろうと思い、まず渚ようこさんということの確認をして、
さっきのお客さんに対してサクラなら来なくていいと怒っていたと聞いた。
そうなると必然、渚さんの曲を聴いてみたくなるわけで、
CD屋で探して聞きますよと言ったら、店に置いてあるとのことで即買い。
タイトルは『ふるえて眠る子守唄』。
あの数々のヒット曲を生み出した“20世紀最大の作詞家”阿久悠さんと組んで、新作・旧作の詞に著名アーティストが曲をつけたのを、渚ようこさんが歌ったもの。
歌謡曲のなんたるかをわかる二人が出会って作り上げた”平成歌謡曲宣言”。
歌詞カードに書かれている阿久悠さんの詩もさすがにいかしてる。抜粋ながら紹介すると、
「さあ、今こそ、平成歌謡曲を。歌謡曲は魔美夢愛喪(まみむめも)。言葉は──夢 奇跡 栄光 成金 成功 幸運 憧憬 喝采 欲望 悪徳 頽廃 狂気 背信 転落 虚栄 倒錯 失意 不遇 絶望 軽蔑 醜聞」
・・・この前の文も味わい深いのです。これは買った僕だけ楽しめるということで。
確か僕の同僚で阿久悠さんに弟子入りを考えた男がいると話したら、ようこさんが面白がってくれ、たくさん話ができた。程よくいい感じで、これくらいが気持ちいいかと、2杯だけ飲んでお勘定。
昔も今も、モノづくりのはじっこに関わっている僕として、こんな店は大事だなあと。いいお店でした。店名の『汀』は、「なぎさ」と読むんだそうです。納得。
さてさて、おいとましようとしたとき、ようこさんから『ここらへん開拓してるんなら、なかなか濃い店があるよ』と。
なんでも、東郷健さんという75歳のオカマさんがやっている店だという。
実は昔、何度も選挙にでて一躍有名になった人。・・・・っていうか覚えてる。こどもながら強烈なインパクトで脳裏に焼きついていた。
みなさんもきっと知ってる人は多いだろう。ここ、ゴールデン街で店を開いているとか。
家に帰っていろいろ調べてみた。いやぁ、濃い濃い。
さてさて、ようこさんに言われるがまま「ディープな世界」へダイブするのか。いやはや意外とそこには大事な何かがあるのか。
昔はいろいろ思慮深く、物事を考えた時期もあったか。夢野久作とか読んでたっけ。
漂流は加速する、あとは心構えとタイミングだけ。
“汀”
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